すべて美しいものは隠されている街  実はロンドンはおいしい

ビクトリア朝の建築が美しいコノートホ

僕がロンドンに住んだのは1993年10月から4年間強

宇宙航空専門商社の駐在員として、フランスとイギリスの仕事のお手伝いをしていた

お客様の中には、何度も何度もロンドンに滞在した経験をお持ちで、今更駐在員の助けなど不要という方もおられたが、そういう冷たい言われ方をした時こそ、腕の見せ所となった。

というのは、ロンドンという街は、外から観ただけでは薄汚くて、観光名所は物価は高くて、一見の客には食事はマズイものしか提供しない街だからである。

「ロンドンって、メシまずいよね。」と言う人は、おいしい店の見つけ方や情報を知らないだけなのだ。

19世紀には、太陽の沈まない帝国と呼ばれた大英帝国の首都に、マズいレストランしかないなんて、アリエナイ。


駐在員にとって、おいしい店、何度でも行ける店を見つけることが最大の関心になる。それはお客様の驚きを生み、仕事の成功に結びつく。

意外なところに、おいしい店があった。

なんの看板も出ていない商工会議所の地下とか、
やはり地下にある広い割の人のいないパブとか、
公園の中にある、ワインバーの地下のフレンチレストランとか、、、、

なんだか地下ばっかりだが、そこにレストランがあまりにこっそりとあるので、
そこに連れていってもらったお客様は、それだけですでに感情が高まっている。
そして実際においしい。だから、みんな幸せになる。仕事なんてどうでもいい。

仕事なんて忘れて楽しむ、そうすると仕事もうまくいく。
そんなおいしい高級コールガールのような生活をしていた。

お客様といっても、日本からのお客様は宇宙航空産業だし、
イギリス人もフランス人も、宇宙航空産業だから、
客の知的レベルは実に高く、なにげない雑談も勉強になった

日本から会社の取締役が出張でくるので、何を食べたいかと伺ったら、
「ローストビーフ」という。
秘書に頼んで調べてもらったのが、コノートホテルのグリル
ここは上品で、おいしかった。
大変お気に召した上司が、
「裏を返せよ」と教えてくれた。
裏を返せとは、おいしい店にぶち当たったら、
食後一週間くらいで、お礼にもう一度食べにいくことだという。
すると店と仲良くなれるのだそうだ。
もともとは吉原の花魁用語で、初日は同衾しない花魁とは、
「裏を返」したときにはじめて一緒に寝ることができるという
使われ方だったようだ。

ロンドンは、ホテルのグリルルームやレストランは、
割とレベルが高かったが、とくにコノートと、
ハルキンがよかった。

ケンジントンの近くにひっそりとあるHalkin Hotelのレストランは
そこで食事した友人から、緊急報告、こんなおいしいレストラン見つけたと
電話をもらった

実際に試してみたらすごくおいしいイタリアン、ワインもめちゃくちゃセンスいい

Pomino Bianco Frascobaldiというトスカナの白ワインを知ったのもここでだった
なんと、後日、日本のメルシャンに買収される蔵である。
スキッとして軽い水みたいな口当たりなのに、しっかりと風味がある。

美食ばかりしていたから体重も今より8kgから9kgも太っていた。
不健康だったかも。4年で十分だったかも。
こうやってオリンピックに刺激されて思いだすことはあるが、
また行きたいと願うわけでもない。